●vol.24 わらしべ長者

 友人から電話がかかってきた。「服を安くサイズ直ししてくれる所を知らない?」という相談である。一度に服を十枚以上直したいというので、「いったいどうしたの?」とたずねると、「離婚して6キロもやせちゃって、服が全部ゆるゆるになってしまった。枚数が多いから、さすがに買い換えるわけにいかない」ということである。
「そうねえ、たしかに買うより安くつくかもしれないけど、リフォームって意外とかかるから、思っているより割高になるかもよ」
 というと、
「そうかもしれないわねえ」
 と彼女は困った声だ。

 そのときだ。私は、はたとひらめいていってみたのである!
「ねえ、私の着古しでよければ、大量にあるけど、もっていかない?」

 服作りも4年もやっていると、さすがに服がたまってくる。気に入らなかったものはすでにあげたり売ったりして処分しているが、今度は「全部気に入っている服」の中で優先順位がついてくるのである。ワンピースなどは気に入っていても、TPO的に着る機会がないので眠ったままだ。どうやら私は「着切れないぐらいの衣装もち」になってしまったらしい。

 おまけに、最近は忙しくて、リサイクル・ショップやフリーマーケットで売るのも手間の割りに実入りが悪いのでおっくうになっていた。私の作っている服は、布など結構厳選しているので、ちょっとした汚れやシミのために、お値段がガーンと下がってしまうのは、やっぱりちょっと残念である。

 だったら、知らない人に安く売るより、知っている人にあげちゃった方がいい! と考えた次第なのだ。知らない人に喜ばれるのも悪くないけど、身近な友達がこんなことで喜んでくれるなら、そりゃーすばらしいじゃありませんか。

 そんなわけで、二つ返事でやってきた友人は、あれもこれもと大喜びで持っていき、近所で夕食も食べて大いに盛り上がり、時間も遅くなってきたので彼女は家に泊まることになった。そして、風呂から上がった深夜のリビングで、彼女はおそるべきことを口走ったのである。
「あのさ、お礼にこの家のどこか好きなところを掃除してあげる。どこがいい?」

 かくして彼女は私が指定した深夜の台所を、パジャマにエプロンつけて、すごい勢いで磨き始めたのだ。しかも、
「ねえ、この台所、配置がつかいずらそうだから、適当にアレンジしていい? ほら、このゴミ袋類はこっちに入れたら取り出しやすいでしょ、で、あいたこのカゴにビン、カン類を入れて……」
 と、システム変更までやってくれちゃったのである。
 我が家の台所は、またたくまに、ものすごく使いやすくなってしまった。もともと購入したときに、もう予算が足りなくなってしまって、台所の収納が動線がうまくあっていなかったのを放置していたのである。

 これには本当に感激しましたよ。だって、友情をお金に換算したら悪いかもしれないけどさ、家事代行サービスよりはるかに高度なことやってくれてるんだもの。夜中に近藤典子先生が来たみたい(笑)
 それに、ふつうの家事代行サービスって「ここをこうして」っていうことに対してはプロなのかもしれないけど、「ここをこうした方が使いやすいんじゃないですか?」ということはやってくれないんじゃないかな。こちら側に「こうしてください」という明確なヴィジョンがないと、サービス業っていうのは頼みずらいんだよね。 

 さらに、友人が片付けていってくれた後というのは、「これ以上ずるずると甘えてはいかん」という気持ちが働くため、その状態をキープするよう、努力するようになる。これが結構きくのです。あと、家に来る前があまりひどいのもなさけないので、この状態でそれなりに片付けておくから、これだけでも家の整理整頓に有効である。

 ところでサイズについてなのだけれど、私の服はかなり自分本位に微調整しているから他の人には合わなくなってしまうのではないかと思っていたが、意外とそうでもないものだ。ときどき「まあ、これ、五分袖の服ね、贅沢ね」「い、いや、それは私には七分袖なんですけど……」といった少々の行き違いはありましたけどね。

 味をしめた私は、さらに数人の友人を呼びたて、いらない物を持っていってもらったり、あちこち掃除してもらった。とくに、10年来使ってきた、私ひとりの力では動かせない重いスチールの棚は、友人が知り合いの男性を紹介してくれたので、彼が全部解体してもっていってくれた。おかげでその場所に、絶対無理だと思っていた裁断テーブルを置くこともできた。

 そんなわけで、私が「works」で作ってきた服の7割ぐらいは、もう私の手元にない。

 知人に服をあげるのが見知らぬ人にあげるよりいいなと思うのは、こちらからもいろいろ注文がつけられること。とくに、布は古くなったら捨ててもいいが、ボタンは絶対要返却!!!!!というのはお約束である。

 何年か前にNHKのラジオ英会話で取り上げた「co-op orgnisation (協同組合のような組織)」というもののことを思い出した。このトピックでは、仕事と子育てに忙しい母親が、近所で5人ほどのメンバーをつのり、交代で夕食を作る、という話をもとに会話が進められていた。
 
ンバーは5人いるから、週に一度は5家族分の料理を作るけど、その代わり、ウィークデーは週に1回しか料理しなくていいのだ。外食するより食費はずっと安くなるし、親も子どもたちもストレスから解放されるし、カレーやシチューはまとめて作ったほうが味がいいし(これはいってなかったかも)、何よりこうした共同体を作って助け合うのは、そうやって家を作ったり畑を作ったりしてきたアメリカ建国以来の開拓者精神である、みたいなことをいって、番組は終わっていた。
 当時の開拓者たちは実家の親親戚というものに頼ることができなかったから、手を差し伸べあうネットワークを、「血縁の上下方向」ではなく、「地域の横方向」へ伸ばしていったのかもしれない。私はそれを聞いて、ずっと「こういうのがもっと日本でも発達すればいいな」と思っていた。もちろん、ネットワークというのは、「血縁」でもなく「地縁」でもなく、あくまで「安全な人間関係」の上に成り立っていってほしいと思っているけれど。

 ともあれ、この小さなポットラックのアイディアは、私の生活に、服をフリマで売ったときに得るお金よりも倍もの豊かさをもたらした。不特定多数を相手にする「プロ」にならなくても、小さな共同体の「仕立て部門」ぐらいなら、自分の責任能力に合致しそうだからだ。せっかくの今まで培った技術がムダにもならず、ほんとうに「わらしべ長者」になった気分である。

 一つ失敗した、と思っているのは、私は掃除が苦手なため、相手に「何をしたらいいんでしょう?」といわれて、答えに詰まってしまうこと。だって、何をしたらいいかわかっているぐらいなら、自分でやってるもの! 
 先日も、本棚のほこり払ってもらえばよかったのに、忘れてしまった。今度来たら、ぜひお願いします。あ、あと、ひとりじゃ貼れない窓ガラス用の紫外線カットフィルム貼り、っていうのもあります。

(02.12.04)    

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